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farmar's talk NEO

キュウリ農家 "夢男"の考える農業のあれこれ…   →農業以外の話題は "pop" http://ftalkpop.hateblo.jp/ へ

ほろ苦い青春と人生と粉砂糖

この時期の恒例行事、青色申告も終わり、寒さも一段落したつい先日。頭の中に詰まっていたものがスッキリと取れたこともあって、次女を学校に送って行く途中のいつもの風景なのにとても輝いて見えた。軽トラを止めて、カメラを向ける。

「毎日通る雪に覆われた牧場」
nagameyama

「毎日渡る冬の白川」
shirakawa river

なんでかね、気分も変われば風景も変わるんだよね。代わり映えのしない日常を変えるのは、単純にその時の気分なのだ。いい気分は世界を明るく輝いて見せてくれる。いうなれば、映画「(500)日のサマー」で、ズーイ・デシャネルとつき合うことが出来たジョゼフ・ゴードン・レヴィットがミュージカル映画でもないのに突然歌い踊ったようなもの。う〜ん、とてもわかりにくい例えだね(笑)。それこれとは状況は違うけど、いちおうそういう感じということでよろしく!

「そのダンスシーン」https://youtu.be/8tJoIaXZ0rw

それと同じように、今の気分をさらに盛り上げてくれた本がある。瀬川深『SOY!大いなる豆の物語』である。

「この本の主人公は、アニメやゲーム好きな今は無職の青年、陽一郎。携帯端末でツイッターらしきコミュニケーションツールで常に仲間と繋がり、自由気ままな(充実したとは決して言えない)毎日を送ってる。そんな時、彼に関わる南米をベースとする多国籍食品会社からの突然の通知。どうも、その創業者である大叔父は彼の亡き父の実家である岩手県の山村の旧家の出らしいのだ。「イエ」やルーツなどを全く考えたことのなかった陽一郎。創業者の遺言に関わる依頼で父の実家を訪れることになる。断片的に出てくる手がかりから次々と判明する新事実。それらは陽一郎に否が応でも影響を与えるであろうことは、その時の彼には知るよしもなかった・・・」(解説・夢男)

世代をまたがって進行するミステリー仕立ての大河ドラマ、あるいは青年の成長物語として展開するこの小説のキーワードは「東北」「移民」「食」「世界」「歴史」そして「イエ」。どこを切っても、東北でイエがらみで移民の歴史もちょっとは関わり農業をしている「かつて若く青年だった」僕の興味を引かないわけはなかった。図書館で借りてから正味二日で五百ページの大作なこの本を読破したぐらい。

この本とどうして出会ったか。いつも行く遅筆堂文庫に行ったら、新刊書紹介コーナーにこの本のカバーと帯が貼ってある。帯には池澤夏樹氏の推薦文があったのだ。池澤氏といえば、氏のルーツを取り上げた『静かな大地』は僕の感動五本指に入る小説。氏の推薦ならば間違いない。ましてや、タイトルからしてどうも食に関係するっぽい。僕の嗅覚がびんびんビンゴ!というわけだ。

この本は、東北出身の人にしかわからない「空気」を的確に描いていると思う。「イエ」「家督を継ぐ」という関係ない人から見れば非常につまらないことを関係ある人にはそうそうと思わせる説得力もある。最後に主人公に訪れる結末は、読者を青春時代に連れ戻してくれる。「東北出身の農家の長男で、自分のルーツやイエを継ぐことに悩んで、それとは別に突然の恋に心ときめいたことのある人」は僕の保障付きでタイムスリップ出来ること請け合い。いや、タイムスリップじゃない。今おっさんになっていたとしても、これを読んでいる間は現代を生きる青年に戻れる。絶対に。本を読んでいる間、徐々につかまれて苦しくなった心が、最後にはパッと解放されるのだ。

この本を読んでいる間、僕は先のジョゼフ・ゴードン・レヴィット同様に過去と現実の間のどこか別の次元で歌い踊っていたのかもしれない。ほろ苦い青春と人生にちょっとだけ粉砂糖がけ。そんないろんな味のする一冊だった。

SOY! 大いなる豆の物語 (単行本)

SOY! 大いなる豆の物語 (単行本)