farmar's talk NEO

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堤(つつみ)へ

今年の秋はとても雨が多い。稲刈りが終わるとキュウリの収穫も大幅に少なくなるので、雨の合間に色々と雑多な秋仕事を終えなくてはならない。

家から十五分ほどの山間にある、我が家の通称「堤(つつみ)」と呼ぶため池の草刈もそんな恒例の秋の作業。ため池を「つつみ」とその堤防の部分で呼んでいるのは、これが山の沢をせき止めたため池であり、築堤が非常に困難な作業だったことが、我が家で代々言い伝えられているということもあるのではないかと思われる。堤は、この「ため池」のシンボルの一つと言ってもいい。

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堤の草刈には毎年十一月の最初の週に行く。堤の草、正確にはカヤやワラビが主であるが、それを刈り、燃やす。仮に刈らないでそのままにしておくと、草と共にハンノキなどの小木があっという間に生えて、堤が林になってしまう。木の根っこがはびこると堤の強度が弱くなってしまうから、草刈作業として小木も切りることで、それらを絶やすことも目的であるのだ。

ため池までには山の田んぼ脇の農道を少し歩いてから沢道へ入る。道があってないような人が通れるだけの一本道だ。うっすらと日陰でなので、いつも足元がぐちゃぐちゃして、空気もじめじめっとした雰囲気なのだが、決して陰気な感じはない。むしろ、ここへ来るとなぜか心が晴れやかになるのだ。

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近くの幹線道路から堤まではほんのちょっとの距離なのに、木々に音が吸収されるのか、鳥のさえずり、風で音、木の葉のざわめき、そしてため池からの小川の流れる音しか聞こえない。農業をしているといっても、自分以外の人から離れて仕事をする環境はそうはない。しかし、この堤は唯一、それを与えてくれる環境なのだ。

世界遺産になる自然でも、絶景でもない。堤があるのは、ただの普通の山の中。ここにきた人は皆、そう思うはずだ。しかし、我が家族にとって、ここは聖地とも言ってもいいほどの特別な場所。だからこそ、ここには心の安らぎが、確実に存在しているのだ。